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posted by: - | 2009.08.06 Thursday | |
ストーリーテリングが経営を変える―組織変革の新しい鍵
 客観的に距離を置いて、遠くから観察するように、企業、病院、学校などの組織を研究するのがいいか、そこに関与するひとたちの、いろんな生の声での物語で、生きられるままの組織の記述をするのがいいのか。後者に期待する動きが多数、見られ非常に興味深い。
 なんとっても、元世銀のS.デニングの貢献が実践的な契機になっているが、ここに、元ゼロックスのパロアルト研究所のJ.S.ブラウンが合流して、とても力強い動きが姿を現している。
 ジョン・S.ブラウン=ステファン・デニング=カタリナ・グロー=ローレンス・プルサック著『ストーリーテリングが経営を変える――組織変革の新しい鍵』(高橋正泰・高井俊次監訳、同分館出版、2007年)


 1980年代に組織文化や組織学習の研究が誕生し隆盛したときに、組織のなかで、語り継がれる物語、その組織のDNAに近いようなものの共有、そのための語り部としてのリーダーという役割が話題になった。その後、単なるブームとしてではなくて、この問題を考え続けてきたひと、経営の実践、とりわけ知識創造、組織変革、対話の促進のために、ストーリーテリングを重視してきた一連の研究者がいる。本書は、この分野に興味をもちつつ、格好の入門書に出会わず困っているひとには、吉報となる出版物だ。信頼のできる読みやすい訳書が出たことを喜びたい。
 著者4名の専門分野は違う。だが、ストーリやナラティブ、その語り部の役割の深い興味を抱く点で共通している。PARCの略称で知られるゼロックス・パロアルト・リサーチ・センターの元所長として名高く常に学問の境界を取り払ってきたジョン・シーリー・ブラウン(第3章「組織における知のメディアとしての語り」)。保守的な世界銀行をナリッジ・バンクに変身させる組織変革に携わることになったステファン・デニング(第4章「語りは組織変革のツールである」)。物語アプローチで教育用ビデオを世界中に供給し対話を起こしてきたカタリナ・グロー(第5章「教育用ビデオ制作におけるストーリテリング」)。そして、ナレッジ・マネジメントの分野でよく知られ邦訳も二冊でている元IBM 経営幹部のローレンス・プルサック(第2章「ストーリテリング・イン・オーガニゼーション」)。すごい顔ぶれで、分野の多様性はいい目に出ている。専門は違うがストーリテリングへの関心を共有するひとたちが、このように専門の蛸壺を出て、交流していること自体が興味深い。
 本書の中核部分は、ワシントンDCにあるスミソニアン国立アメリカ歴史博物館でおこなれたシンポジウムにおけるこの4名の登壇者の講演の記録(第2章〜第5章)だが、それに加えて、第1章では、著者ひとりひとりがどのようにして「組織における物語り」に出会ったのかが、導入部として追加され、第6章では、著者たちを代表して、デニングがシンポジウムの意味を振り返り、それを学問的また実践的に位置づけ、論点をうまく要約し、関連する学説を紹介し、実践的なツール、リーダーシップに不可欠のものとしてのストーリテリングについて展望している。
 社史や会社案内など公式の文書よりも、その会社の内部者や関係するひとの語るオラル・ヒストリーのほうが信頼できる(第2章)。わたしも、経営学者として大勢の経営者にインタビューしてきたが、無理してなにかを聞きだそうとするよりも、自然な語りが開陳されたときに、その経営者やその会社のアイデンティティがより鮮明になってくるものだと実感している。思えばキャリアの調査は、それ自体が職場を通じてひとが人生を学ぶ語りにほかならないとさえ思える。仕事の世界の人類学的研究(仕事や組織のエスノグラフィー)というのにはじめて本書でふれるひともいることだろうが(第3章)、ゼロックスでのコピー機の修理法がマニュアルではなく、同僚と話し合いながら、物語を紡ぐように解決が図られる(ジュリアン・オールの有名な研究)。組織におけるプロセスとは、ひとを鋳型にはめる手続き・手順・マニュアルといった強制力ではなく、物語を通じて潜在力・可能性・即興の余地を指すことを、ブラウンは強調している。組織変革に物語りを活用したいと思う読者には、1996年から2000年までに世界銀行で起こったことがすばらしい実践的ケースを提供するだろう(第4章)。評者自身も、ここ数年、経営者の貴重な語りをお聞きする機会があるたびに、映像を残すように心がけているが、グロー・プロダクションという映画製作会社による映像教材の作成は、ヒントに充ちている(第5章)。ネルソン・マンデラのようなすごいひとの語りも、それをただ見るだけでなく、見るひとが語るひとりひとりの物語を誘発する機会提供に役立っている。それがうまく語り継がれるときには、いい物語は、周りの人びとにも物語を生成させる器となる。本書を読みながら、著者たちが使っている言葉ではないが、物語を生成する物語(story-generating story)という言葉を思いついた。
 物語が生まれるほどの組織になったら本物だし、長く続く組織が大きく変わるときにも新たな物語ができる。語り部の役割を果たすリーダーや変革エージェントが物語りを紡ぐ。そんなことに興味をもつ経営者、管理職に本書を薦めたい。併せて、会社を見る目を養いたい新人や組織開発の専門家にも手にとってほしい。それがうまく語り継がれるときには、いい物語は、周りの人びとにも物語を生成させる器となる。本書を読みながら、著者たちが使っている言葉ではないが、物語を生成する物語(story-generating story)という言葉を思いついた。
 DNAを誇る伝統ある企業、古い地場産業、怪人が住むほどの劇場、由緒ある病院、名門校といわれる学校には、物語がある。
posted by: 金井壽宏 | 2008.03.17 Monday | 11:19 |
ロスチャイルド家と最高のワイン―名門金融一族の権力、富、歴史
 日経新聞に書評をさせていただいたときのロング・バージョンです。わたしは、伊丹敬之先生や高橋俊介先生のようなワイン通ではないので、ご遠慮しようとも思ったのですが、興味ある本なので引き受けました。窓口だった日経の担当のご承諾をえて、ロング版で掲載させていただいています。

ヨアヒム・クルツ著(瀬野文教訳)『ロスチャイルド家と最高のワイン――名門金融一族の権力、富、歴史』日本経済新聞社、2007年。


 金融王国を築いたロスチャイルドという富裕なファミリーの名前を聞いたことがあっても、その詳しい歴史にふれたひとは稀ではないだろうか。また、ワイン通でなければ、(セカンド・ラベルの)ムートン・カデを気楽に飲みつつうかつにも、ボルドー屈指のシャトーのふたつが、ロスチャイルド家が守り育てたものだと気づかないだろう。金融の世界が、ファミリーの第1の人生なら、ワインは、第2の人生だと著者はいう。しかし、後者の文献はこれまでなかったと。
 本書の特徴は、一方で18世紀後半に頭角を現したロスチャイルド家の歴史を、あたかもトーマス・マンの『ブッテンブローク家の人びと』を読むかのごとく、うまく解き明かしてくれると同時に、いかなる経緯で、ワインに燃える末裔が出てきたのか、物語ってくれる点にある。事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、史実だが読ませてくれる。
 初代のマイヤー・アムシェル・ロスチャイルドには5人の娘と5人に息子があり、1810年には、5人の息子をパートナーとして、ロスチャイルド父子商会を設立した。そのときに、兄弟の誰ひとりとして自分勝手に単独で投資してはならない、利益は持分に応じて分配することを誓約させたことはよく知られている。一致団結がその戒めであった。婚姻も一族の間の同族結婚、従兄弟同士の結婚が多い。家紋には、concordia(協調)という家訓が刻まれていた。パートナーとしての詳細な申し合わせだけでなく、安定した信頼関係が必要だった。なにしろ、二代目にはもう国別に散らばったから結束はいっそう重要なテーマだったはずだ(英国ロンドン分家の三男ネイサン――さらに第3世代のネイサンの三男ナサニエルはボルドーの葡萄園シャトー・ムートンを入手、フランクフルト分家の長男アムシェル、ウィーン分家の次男サロモン、ナポリ居住の四男カルマン、そして、パリ分家のジェームズ――後に、甥に先を越されたがボルドーのシャトー・ラフィアットを入手)。 
 交友の範囲も中途半端ではない。ネイサンの息子はなんと晩年のゲーテにあっているし、一族の宴には、フンボルトやメッテルニヒまで賓客となった。ロスチャイルド家では、リスト、パガニーニが最新作を演奏し、一族の第2世代の女性たちは、ロッシーニやショパンから直接レッスンを受けた。レンブラント、ルーベンス、フェルメールをはじめとする芸術コレクション。
 栄光の面に目をむけると確かに実に輝かしい。しかし、いいこと尽くめではない、偏見と中傷だけでなく、社会変化、革命、戦争などの波乱がこの一族を待ち受ける。世代を下るにつれ、波乱のなかからも、ブッデンブローク家と同様に、政治、慈善活動、芸術、学術など、多方面で才能ある人物を輩出してきた。商売よりも文化に深く染まった分、ややひ弱になったかもしれない。第5世代になると、莫大な富を継承しつつも、先祖ほどのパワーはなく、喪失感をもち、一族の結束や勤勉という徳目も重みを失った。
 ユダヤ人の誇りと苦しみ(一方で貴族の財産管理を助けつつ、他方で、公園やカフェなど市民たちの集う場にさえ出入りが禁じられていた)。家族の間の絆の強さ(パートナーシップ)、そのすばらしさと窮屈さ。世代間の継承にみる連携とコンフリクト(絆は深いが、一人一人の個性と競争心もある)。巨万の富をもつことの矜恃と常につきまとう喪失の不安。ナチスの時代の苦境とそれを跳ね返す力(ビシー政権のフランスにいたロスチャイルド家のストーリは、映画『カサブランカ』を彷彿とさせる世界)。カネは経営資源のなかでいちばんボーダーレスだが、家族の絆でヨーロッパ各国それからアメリカに地歩を築く過程で、文字通り世界に君臨する。
初代から二代目、三代目と下るにつれて、金融という商売だけでなく、文化や社交サロン、そしてワインに傾倒していく姿(これは、トーマス・マンの作品につながる世界)。元々、王侯貴族の財産管理をする御用商人、宮中代理人として、アムシェルドが始めたビジネスなので、王室、貴族との社交は最初から予期されていた。産業資本(たとえば、初期の鉄道)に投資する以前は、国家レベルが顧客であったといってもよい。それだけに、革命やナチスなど運命に翻弄されもする。
 そんなこのファミリーを形容する言葉を探すなら、「栄光と危機」がふさわしい。本書が読むひとに元気を与えるとしたら、けっしてへこたれないで戦う姿勢だろう。そして、それを支えた一族の結束。
 さて、経営資源をボーダーフルな順にならべると、ヒト、モノ、情報、カネとなる(たとえば、経営学者の伊丹敬之氏のかねてよりの指摘)。ヒトは、文化の違う世界に動くには、障壁がある(だから、海外勤務手当は、その障壁を越えてもらう苦労へのプレミアムといえる)。モノは、国際的に通用する商品でも、各国のテイストにあわせることが必要になることがある(商品名やパッケージングや、食品なら文字通りのテイスト=嗜好)。情報は、英語が国際語になり、電訳ソフトがでてくれば、また、インターネットなど情報技術の発達により、かなりボーダーレス(国境を意識しない状態)になった。経営資源のなかでは、カネがいちばん、機動的に動く。しかも、それを今ではITが支えている。しかし、カネと情報はボーダーレスであるからこそ、絆がないとふつうは空中分解する。はるかIT以前では、もちろん、第2世代の5名の兄弟がおこなったことだが、一族が集い、5人ともあえて違う国をベースにしたので、手紙を書く文化を重視した。この世代の兄弟間の文通は、歴史的資料だろう。
 さきにもふれたおとり、ロスチャイルド家がすごい点は、経済の世界だけでなく、政治、文化、国際、そしてワインにまで及ぶ点だ。
 本書でいちばん興味深いのは、いちばんボーダーフルと思われるはずのヒトが早くも第2世代(つまり、初代アムシェルの5人の男子たち)の間で、さっそく国境を越えた点だ。また、ヒトのつぎにボーダーフルなモノだが、ワインは、同じビンテージが世界中のグルメ、愛飲家、それも富裕な愛飲家に渡るという意味でボーダーレスでもある点だ。そして、本書で語られるようなビンテージとなると、ロバート・モンダヴィが述べたように、ワインもまた、ビジネスを越えて芸術の域にまで達する。ワインには、テロワール(土壌)が大切だといわれるが、運命に翻弄されながらも長く反映する企業にテロワールにあたるものがある。
 ロスチャイルド家の絆は、差別があり祖国がないユダヤ人だから、という点があるにしても、ヨーロッパにさっそく息子の代にして君臨したという点は特筆に値するだろう。最近の社会的ネットワーク分析や社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の研究では、ゆるやかな弱い紐帯こそ、広いつながり、思わぬ情報や資源の動員につながることが注目されてきた。ロスチャイルド家は、これを家族という最も濃い強い紐帯に基づいておこなったことが印象深い。もちろん、初期の大口顧客は産業ではなく、国であり、貴族たち支配層なので、城をつくり、贅を尽くした社交の場が、ゆるやかで広範なつながりを生み出す重要な手段であったことが読み取れる。もちろんその場には、シャトーをこの家族がもつことになる以前から、一流趣味のロスチャイルド家のパーティらしい高級ビンテージワインがテーブルに並んでいたことだろう。
 シャトー・ムートン、シャトー・ラフィットというボルドー有数の最高のワイン生み出すシャトーを、この家族のメンバーが求めるようになったことは、本書に彩りを添える(これを扱った第2部をワイン通の読者なら、ふつうの読者の2倍も3倍も楽しめるだろう)。ここにも、ユダヤ人として苦労が読み取れる。最後に蛇足ながら、書籍のなかの写真がどれもすばらしい。
posted by: 金井壽宏 | 2008.03.17 Monday | 11:06 |
雑誌「企業と人材」記事掲載
『企業と人材』(産労総合研究所発行)第41巻第918号(2008年2月5日号)で、「5年後の人材開発部門の重要課題―2013年の人材育成課題を探る」という特集が組まれています。その巻頭に、「マネジメント層へのOJTと研修オンライン化が未来に向けた人材開発のキーワード」というタイトルの記事が掲載されました。

この記事は、金井壽宏先生と内田恭彦先生(山口大学経済学部)とともに、米国企業を視察した際の見聞に基づいています。ペプシコで見られた「リーダーによるリーダー育成」の哲学や、ノースウエスト航空の「オンライン研修システム」などから、わが国の将来の人材育成に向けて、示唆が述べられています。
posted by: 高橋潔 | 2008.02.06 Wednesday | 00:34 |
2007年のお知らせ一覧
経営人材研究所トップページの右に表示されている更新履歴のうち、2007年のものをまとめて、以下に挙げさせていただきます。

◆2007/12/11
金井が産業能率大学様主催、通信研修「実践リーダーシップ」執筆記念の講演を行ないました。以下に紹介記事がございます。
http://www.hj.sanno.ac.jp/cgi-bin/WebObjects/108411de0d5.woa/wa/read/1168e490c3c/
ご覧ください。


◆2007/12/05
慶應大学キャリア・ラボ様主催の「CRL勉強会」(人事・教育担当者を対象とした研究会)において、金井が講演を行いました。以下は、講演内容がまとめられたPDFファイルへのリンクです。
http://www.crl.sfc.keio.ac.jp/newsletter/Dec2007.pdf
ご覧ください。


◆2007/07/31
MBA生を対象とした「心理的契約」調査に関する最終報告書の完成および公開
http://www.b.kobe-u.ac.jp/~hrm/database/update/bin/bin070731205748006.pdf
服部泰宏 新井康平


◆2007/07/03
KIMPSの金井、高橋が、かかわる形で、オーガナイズされた会合で、モティベーションを取り上げたものがここ2年の間に、3件あります。そのうちふたつは、神戸大学が中心になって組織した現代経営研究所のワークショップで、ひとつは、モティベーションの自己調整について、もうひとつは、トップ・アスリートのキャリアの節目におけるやる気のあり方について、取り上げたものです。また、この間、金井の神戸大学経営学部ゼミの第1期卒業生の佐藤栄哲さんと共同研究でおこなっているモティベーションの体系的調査の中間報告(同時に、調査協力者へのフィードバック)の機会として開催された会合です。それぞれにおいて使用したパワーポイント報告資料を、ご参考までに、モティベーションの問題に興味をお持ちの方々むけに、PDFでアップロードします。パワーポイント資料だけでは説明は不十分ですが、それでもおおむねどういうことをいいたいのかはわかっていただけると思いますので、興味のおありの方々には、ご覧いただければ幸いです。

・モティベーションは上下するもの:やる気を自己調整するために
http://www.b.kobe-u.ac.jp/~hrm/database/update/bin/bin070703091420006.pdf
・モティベーションを極める視点:理論と持論、感動と集中、体系的エンジニアリング(ビジネスインサイトワークショップ2006)
http://www.b.kobe-u.ac.jp/~hrm/database/update/bin/bin070703091920006.pdf
・キャリアをデザインし、モティベーションを自己調整するという視点(ビジネスインサイトワークショップ2007)
http://www.b.kobe-u.ac.jp/~hrm/database/update/bin/bin070703092720006.pdf


◆2007/06/19
人材開発支援サービスをなさっているサイバックスの楠田祐さんと、金井、高橋、西尾がコンタクトがあり、同社の広報活動のウェブサイトに、記事を載せていただいております。つぎのところをお訪ねください。

モティベーションとキャリアをつなぐ視点 金井壽宏
http://granaile.jp/column/human17.html
360度フィードバックを定着させる視点 高橋潔
http://granaile.jp/column/human29.html
京都の芸妓舞妓の育成と評価 −顧客と育成責任者と被育成者の関係性− 西尾久美子
http://granaile.jp/column/expert04.html


◆2007/06/13
さきに、神戸大学MBAプログラムの組織行動のシラバスの改訂版をアップいたしましたが、一日目のパワーポイント資料の金井担当分がだいたい仕上がりましたので、現状で一応アップしまして、高橋さんの分を合体したもの、あるいは追加で高橋さん中心のセッションの分のパワーポイントは追って、またアップすることになろうかと思われます。
http://www.b.kobe-u.ac.jp/~hrm/database/update/bin/bin070613173925006.pdf


◆2007/06/13
6月16日から、神戸大学では、経営人材研究所の高橋潔と金井壽宏とが、組織行動の科目の講義をスタートします。土曜4日をフルデイ使って、16コマ分の講義をいたします。そのシラバスができあがりましたので、受講生の方々にはもちろんのこと、KIMPSをお訪ねになられる方々にも、どのような講義をしているのか、お披露目になるので、このウェブサイト上でも載せることにいたしました。この講義では、金井・高橋共著の『組織行動の考え方』という本(東洋経済新報社から出ています)をメイン・テキストにしています。本年度は、これまでのなかで、最もテキストに忠実な構成になっていますので、MBAにこられていない方々でも、この本のひとつの読み方として参考になるかと思います。とくに、グループなどで輪読されている場合には、参考になろうかと存じます。
http://www.b.kobe-u.ac.jp/~hrm/database/update/bin/bin070613020400006.pdf


◆2007/06/04
金井壽宏が、「ユメとキボウの就職論」というテーマで、糸井重里さんと対談をさせていただき、その結果が順次、ほぼ日刊イトイ新聞にアップされました。ご覧いただければ幸いです。
http://www.1101.com/job_study/kanai/index.html


◆2007/05/23
神戸大学の金井研究室では、,茲ね論ほど実践的なものはない、したがって意味のある経営学研究は実践的な教育の場面でも利用可能である、研究者が構築する公式の理論(formal theory)だけでなく、実践者が実際に使用している持論(practical theory-in-use)をインタビューから言語化したり、実践者の伝記や自叙伝から抽出したりすることが可能で、それらも実践的な教育場面での利用可能である、という二つの観点から、研究室で一丸となっておこなってきた作業があります。
その作業結果の一部を、中間成果として神戸大学大学院経営学研究科ディスカッション・ペーパー・シリーズとして公刊し、あわせて、ウェブ上でPDFファイルにて公開しております。まず、つぎの2件を、興味おありの方にはご覧いただければ、幸いです。
(1)金井他『働きながら学ぶことの真の意味とパワー――このアプローチを意識したキャリア・人事面での教材開発』神戸大学大学院経営学研究科ディスカッション・ペーパー・シリーズ#2007-13。
(2)金井他『リーダーシップの持(自)論アプローチ――その理論的バックグランドと公表データからの持(自)論解読の試み』神戸大学大学院経営学研究科ディスカッション・ペーパー・シリーズ#2007-12。
http://www.b.kobe-u.ac.jp/publications/dp/2007/index-jp.htm


◆2007/05/15
金井壽宏がながらくお世話になっている神鋼ヒューマン・クリエイト社の広報誌、『CREO』の誌上に掲載された、金井の対談の一部が、つぎのサイトで見られます。
http://www.shc-creo.co.jp/webcreo/index.html


◆2007/05/14
金井壽宏が明治大学における2006年10月の組織学会年次大会で、「リーダーシップ共有の連鎖とリーダーシップ持論――考えることと行動することを組織的につなげるために――」という題目で報告したときのペーパーをPDFでダウンロードできるようにいたしました。
当日の司会は、東京大学の藤本隆宏さんで、たいへんに有意義なやりとりができました。愛着のあるペーパーですので、加筆して『国民経済雑誌』に投稿する予定ですが、報告要旨に載せたバージョンを一部だけ改変したものを、アップしております。実践家によるリーダーシップの持論、リーダーシップ・パイプラインの形成、経営人材の体系的に育成に興味のある方は、ぜひご覧ください。
http://www.b.kobe-u.ac.jp/~hrm/database/update/bin/bin070514110325006.pdf


◆2007/05/09
立教大学経営学部様に、グローバルなビジネスに通用する英語でのコミュニケーション力、そして若いときからリーダーシップを発揮できるような力をつけることをめざした、特徴あるプログラムが生まれ、あわせて、リーダーシップの研究をおこなうセンターができました。
大変名誉なことに、そのお披露目の国際会議のひとこまとして、金井壽宏が基調講演に招かれました。その講演の内容が、立教大学様のサイトで読むことが可能です。
http://ils.rikkyo.ac.jp/blog/2007/05/ils_20a0.html
posted by: お知らせ | 2008.01.10 Thursday | 07:17 |
3.グループ経営の変化
経営戦略でいまもっとも大きな課題はグループ経営である。グループ経営とは,基本的には事業ドメインを再編成して,カンパニー化したり分社化したりするということである。たとえば,三菱電機はDRAM事業をまるごと日立・NEC連合に委譲した。また,松下電器はドメインを14個に再編して,ドメインに応じて事業部や子会社を再編するということを行っている。

分社化を伴うグループ経営改革の目的は,以下の4つである。
.薀ぅ丱覺覿箸量亙錣鯔犬欧觀弍鳥餮擦鯀禄个垢襦
競争力のあるコスト構造に転換する。
A反コ萠呂魄飮する最適規模を実現する。
せ業ポートフォリオに応じた傘下事業会社のジョイントやエキジットの自由度を高める。

グループ経営に影響を与えた法制面の変化は次の3点である。
_饉卻割法
事業部をスピンアウトして一つの会社に分社することが,税制面でやりやすくなった。
∀結納税制
赤字子会社も黒字子会社もグループ全体で合算して税金を納めることができるようになった。
商法改正
委員会等設置会社,社外取締役の配置,執行役員制が選択できるようになった。

変わるグループ内会社関係

これまではグループ内の会社は親会社と子会社という表現からも分かるように,相互にもたれあう関係であった。親会社は戦略的意思決定権限を子会社に委譲して放任するが,資本と幹部の人事権を押さえているので求心力を保つ。逆に子会社は資金や人材を親会社に依存していた。ところがグループ経営では,持ち株会社と事業会社の関係に変化する。



グループ経営機構改革とグループ本社(GH)

たとえば,ソニーは事業持ち株会社であり,NTTはR&D部門を本社に置く純粋持ち株会社である。持ち株会社化とはグループ経営機構改革を意味し,具体的には以下の3つのことを行う。
.バナンスとマネジメントの分離
▲哀襦璽徊楴劼寮鞍
事業部別マネジメント体制の構築

ガバナンスを担う取締役会にはCEOのような内部者のみならず社外取締役が入る。執行を担うCEOは社外取締役を主体とする指名委員会で決定される。グループ本社のトップはCEOであり,その配下に財務や情報,戦略など機能別にオフィサーが配置される。ドメインに応じた事業担当オフィサーのもとに事業会社を配置する。典型的なグループ経営機構を図解すれば次のようなスライドとなる。



ソニーのグループ経営改革

グループ経営の目的は,分化と統合という二律背反するものをグループ経営の高度化によって達成していくことにある。たとえばソニーのグループ経営の方針は「分極と統合の経営」であり,事業会社が自律的に分極していくが戦略的意思決定権は持ち株会社(グループ本社)が押さえている。

ソニーには事業ドメインが5つあるが,ドメインを統合する機能として,「グローバル・ハブ」というグループ本社が置かれている。この5つのドメイン間のシナジーを創出するためにプラットフォームが置かれている。プラットフォームは2つある。ひとつが戦略プラットフォームであり,グループ全体の価値創造のためにさまざまな戦略立案やシンクタンク機能を持ち,5つの基幹事業相互の連携を促進する。この中心メンバーは,CEOとCOO及びCFOの3名である。彼らがトップマネジメントチームになって,その配下に非常に高度な戦略担当スタッフとシンクタンク機能を配して,グループ全体の戦略を創出していく。
もうひとつが経営のプラットフォームであり,事業会社のスタッフ部門(経営,財務,法務,知財,人事,総務,情報システム,広報,渉外,環境,デザインなど)をグループ本社に集約し,より専門化する。

グループ本社のプラットフォーム

ソニーやNTTの事例を参考にすれば,グループ本社には次のスライドのような4つのプラットフォームが考えられるのではないかと思う。



グループ本社の人材経営の役割

ミシガン大学ビジネススクールのディビッド・ウルリッチの人材経営の4つの役割の考え方は,このグループ本社のプラットフォームの考え方と非常にフィットする 。一般には,採用,報酬管理,就業条件管理,退職,労使調整という機能によって,人事部の役割を定義する。これは人事部本位のdoableである。しかしウルリッチは,人事部の役割を,人材を生かすというパラダイムで定義づけ,人事部が経営及び社内の人々に対して何をもたらすことができるのかという考え方,すなわちdeliverableを提唱している。

この定義をグループ本社人事部の設計に照らし合わせて考えてみると,中心には価値のプラットフォームがあり,3角形の点に戦略パートナー,チェンジエージェント,管理のエキスパートという役割が配される。



人事業務の分担の変化

人事部の業務には次の3つがある。企画業務,管理業務,及びサービス業務である。これらを,本社人事部,事業部人事部,ラインマネジャーの3つの主体が分担している。グループ経営の高度化によって分社やグループ本社が新設されれば,企画業務は本社人事部に集約されてくる。一方で,管理業務は本社から事業部やマネジャーに移行していく。サービス業務は,いったん本社に集約した後に,外に出して共有化する。

たとえば三菱商事では,サービス業務を全てスピンアウトし,企画業務を本社に集約化した。人事部は経営企画部門の中にある。管理業務はどんどん現場に移行している。(平野光俊)
posted by: NOMA第3期人材マネジメント研究会 第5回定例会報告 | 2008.01.09 Wednesday | 22:34 |
ストーリーテリングが経営を変える―組織変革の新しい鍵
JUGEMテーマ:ビジネス


ジョン・S.ブラウン=ステファン・デニング=カタリナ・グロー=ローレンス・プルサック著『ストーリーテリングが経営を変える――組織変革の新しい鍵』(高橋正泰・高井俊次監訳、同分館出版、2007年)


 1980年代に組織文化や組織学習の研究が誕生し隆盛したときに、組織のなかで、語り継がれる物語、その組織のDNAに近いようなものの共有、そのための語り部としてのリーダーという役割が話題になった。その後、単なるブームとしてではなくて、この問題を考え続けてきたひと、経営の実践、とりわけ知識創造、組織変革、対話の促進のために、ストーリーテリングを重視してきた一連の研究者がいる。本書は、この分野に興味をもちつつ、格好の入門書に出会わず困っているひとには、吉報となる出版物だ。信頼のできる読みやすい訳書が出たことを喜びたい。

 著者4名の専門分野は違う。だが、ストーリやナラティブ、その語り部の役割の深い興味を抱く点で共通している。PARCの略称で知られるゼロックス・パロアルト・リサーチ・センターの元所長として名高く常に学問の境界を取り払ってきたジョン・シーリー・ブラウン(第3章「組織における知のメディアとしての語り」)。保守的な世界銀行をナリッジ・バンクに変身させる組織変革に携わることになったステファン・デニング(第4章「語りは組織変革のツールである」)。物語アプローチで教育用ビデオを世界中に供給し対話を起こしてきたカタリナ・グロー(第5章「教育用ビデオ制作におけるストーリテリング」)。そして、ナレッジ・マネジメントの分野でよく知られ邦訳も二冊でている元IBM 経営幹部のローレンス・プルサック(第2章「ストーリテリング・イン・オーガニゼーション」)。すごい顔ぶれで、分野の多様性はいい目に出ている。専門は違うがストーリテリングへの関心を共有するひとたちが、このように専門の蛸壺を出て、交流していること自体が興味深い。

 本書の中核部分は、ワシントンDCにあるスミソニアン国立アメリカ歴史博物館でおこなれたシンポジウムにおけるこの4名の登壇者の講演の記録(第2章〜第5章)だが、それに加えて、第1章では、著者ひとりひとりがどのようにして「組織における物語り」に出会ったのかが、導入部として追加され、第6章では、著者たちを代表して、デニングがシンポジウムの意味を振り返り、それを学問的また実践的に位置づけ、論点をうまく要約し、関連する学説を紹介し、実践的なツール、リーダーシップに不可欠のものとしてのストーリテリングについて展望している。

 社史や会社案内など公式の文書よりも、その会社の内部者や関係するひとの語るオラル・ヒストリーのほうが信頼できる(第2章)。わたしも、経営学者として大勢の経営者にインタビューしてきたが、無理してなにかを聞きだそうとするよりも、自然な語りが開陳されたときに、その経営者やその会社のアイデンティティがより鮮明になってくるものだと実感している。思えばキャリアの調査は、それ自体が職場を通じてひとが人生を学ぶ語りにほかならないとさえ思える。仕事の世界の人類学的研究(仕事や組織のエスノグラフィー)というのにはじめて本書でふれるひともいることだろうが(第3章)、ゼロックスでのコピー機の修理法がマニュアルではなく、同僚と話し合いながら、物語を紡ぐように解決が図られる(ジュリアン・オールの有名な研究)。組織におけるプロセスとは、ひとを鋳型にはめる手続き・手順・マニュアルといった強制力ではなく、物語を通じて潜在力・可能性・即興の余地を指すことを、ブラウンは強調している。組織変革に物語りを活用したいと思う読者には、1996年から2000年までに世界銀行で起こったことがすばらしい実践的ケースを提供するだろう(第4章)。評者自身も、ここ数年、経営者の貴重な語りをお聞きする機会があるたびに、映像を残すように心がけているが、グロー・プロダクションという映画製作会社による映像教材の作成は、ヒントに充ちている(第5章)。ネルソン・マンデラのようなすごいひとの語りも、それをただ見るだけでなく、見るひとが語るひとりひとりの物語を誘発する機会提供に役立っている。それがうまく語り継がれるときには、いい物語は、周りの人びとにも物語を生成させる器となる。本書を読みながら、著者たちが使っている言葉ではないが、物語を生成する物語(story-generating story)という言葉を思いついた。

 物語が生まれるほどの組織になったら本物だし、長く続く組織が大きく変わるときにも新たな物語ができる。語り部の役割を果たすリーダーや変革エージェントが物語りを紡ぐ。そんなことに興味をもつ経営者、管理職に本書を薦めたい。併せて、会社を見る目を養いたい新人や組織開発の専門家にも手にとってほしい。それがうまく語り継がれるときには、いい物語は、周りの人びとにも物語を生成させる器となる。本書を読みながら、著者たちが使っている言葉ではないが、物語を生成する物語(story-generating story)という言葉を思いついた。

 DNAを誇る伝統ある企業、古い地場産業、怪人が住むほどの劇場、由緒ある病院、名門校といわれる学校には、物語がある。
posted by: 金井壽宏 | 2008.01.08 Tuesday | 13:54 |
ビジネスインサイト特集記事
BI59
現代経営学研究所+神戸大学大学院経営学研究科の雑誌「ビジネスインサイト」No59誌上で、スポーツ選手のキャリア・トランジションに関する特集を組みました。その巻頭で、「Jリーガーがピッチを去るということ」というタイトルの記事を執筆しました。この記事では、神戸大学にてこれまで実施してきた13名の元Jリーガーに対するインタビューを編集し、プロサッカー選手が現役を引退し、次のキャリアに歩みだしていくまでの過程を、その心理面に焦点をあてながら書かれています。エリザベス・キューブラー・ロスが、末期患者の聞き取り調査から理論化した「死に向かう精神過程」についてのモデルをベースにしながら、まるで、死に至るのと同じような精神状態を経て、Jリーガーが引退を向かえる姿が描写されています。とくに、戦力外通告を受けたときの衝撃はすさまじく、それがあまりに辛い経験であるため、その時の場面をよく覚えておらず、逆に言えば、無意識に記憶から消し去ることによって自我を防衛することもあるほどでした。しかし引退が、死と同じように受け留めがたい、辛い経験であっても、極度に悲観的にならず、楽観的考えをもって、次のキャリアに進んでいけるところが、Jリーガーに代表されるトップアスリートの特徴なのです。うれしいことに、Jリーグ事務局重野弘三郎氏からは、「ここまで内容の濃いキャリア・トランジションを取り上げたレヴューはないのでは、と感じました」と感想をいただいています。

この記事に続いて、2007年6月17日に、田中ウルヴェ京氏(ソウル五輪シンクロ銅メダリスト)、西野努氏(元浦和レッズ)、林敏之氏(元ラグビー日本代表)の3名のトップアスリートをお迎えして、金井壽宏先生とともに開催した「トップアスリートのキャリア・トランジション」に関するシンポジウムの詳録も掲載されています。キャリアをキーワードに、スポーツと経営が接点をもつことのできたシンポジウムでした。

ビジネスインサイトNo59についてのお問合せは、現代経営学研究所(www.riam.jp:電話06−6201−8668:メールbi@riam.jp)までお願いします。
posted by: 高橋潔 | 2007.10.31 Wednesday | 04:36 |
イギリス・レポート(その5)
JLR
 最後に訪れたのが、ジャガー・ランドローバーの工場でした。クランフィールドから4時間以上をかけて、リバプールまでバスで移動しての工場見学です。ジャガーとローバーのラインが共同で設置されている工場であり、2ブランド・2車種について、世界各国から受注した製品を製造していました。わが国の自動車会社と比べれば、単一機能のロボットの数が多く、ロボットだらけの印象があります。また、広い敷地のためか、JITを用いているとはいえ、多くの部品を積み上げている印象でした。生産のスピードは遅く、われわれが訪れた際には昼休みと重なったのか、人がいても熱心に働く姿はありませんでした。また、チームワークと呼べるような共同作業は見えず、自分の担当の組み立てを、ときたま仲間とおしゃべりをしながら、単独で行っているような印象でした。トヨタの工場では、製造に取り掛かってから完成まで1日でこなすのに対し、ここでは、完成まで4日間が必要だということ。ジャガーやランドローバーの価格が高い理由の一端が見えたような気がしました。時間と人力をかけることによって、品質を維持していることがわかります。ただし、この工場の組み立てラインでは、作業員に長期の訓練も必要ではないようなので、工場の移転は容易に行えるだろうし、広い土地が確保できる中国には、この工場の仕組みをそっくりそのまま移行できると感じました。
 興味深かったのは、工場の従業員が乗っている乗用車に、ジャガーとランドローバーを見かけることがほとんどなく、また、親会社のフォード車も少ないことでした。ジャガーとランドローバーが高級車のため、従業員には手が出ないのではないかという話でしたが、自社ブランドの車に乗れないのでは、愛社精神などは生まれようもないでしょう。企業価値の浸透のあり方にも、わが国の自動車産業とは大きな違いがあるようです。リバプールからロンドンへの帰りのバス移動は、途中でバスの故障交換もあり、8時間以上というたいへん時間がかかるものでした。クランフィールド→リバプール→ロンドンを1日で移動する強行軍で、合計12時間以上のバス移動を耐えて工場見学をしていながら、英国の工場には驚くような技術やノウハウはなく、学ぶべきことはあまりないという感想をもちました。
 この企業視察の結論として、ARMのような優良企業がある一方で、国際競争力の乏しい企業が多く見られました。日本企業の競争優位をあらためて認識し直すイギリスでの視察でした。
posted by: 高橋潔 | 2007.10.02 Tuesday | 22:04 |
イギリス・レポート(その4)
 クランフィールド大学での講義をはさんで、次に訪れたのは、半導体や集積回路の設計とフランチャイズで大きな利益をあげているARMでした。インテルやノキアをはじめ、優良企業ばかりを顧客としており、大規模の生産拠点を持たず、設計とフランチャイズ化で高い利益を上げている企業です。プレゼンテーションの中では、企業の歴史、事業内容、人事の特徴についてお話を受けました。成果主義に基づいて個人成果を反映する高い報酬と長期休暇など、報酬面だけをみても十分魅力がある会社ですが、それだけでなく、「Hard work and fun」の合言葉に見られるように、仕事を通じての楽しさと働きがいを感じさせてくれる、働きやすい職場を実感できました。モラル・サーベイの結果でも、92パーセントの従業員が職場に満足を感じているなど、「good place to work」を絵に描いたような企業のようでした。また、グローバル展開をしている企業だけに、内部にダイバーシティが保たれており、設計部門だけを見ても、英国、アメリカ、フランス、インドなどの拠点があり、多くの従業員が国際的な転勤に応じるなど、国際色の豊かな企業でした。ARM
 日系企業では、富士通サービス社を訪れました。英国の郵便局のコンピュータ化・合理化に関連するお話を聞くはずでしたが、プレゼンテーションの中身が見当違いでしたので、結局、業種の中身はほとんどわからずじまい。また、日系のはずでありながら、日本人がまったく赴任していない、少々風変わりな企業でした。プレゼンテーションのために通された会議室の周りのオフィスは、まったく人気がなく、半ば倉庫と化していて、会社のアラがすぐにわかってしまうような場所に、よくも案内できるものだと、逆に感心した次第です。英国に進出した日系企業が、一度現地化した後には、事業をうまく展開していくことはきわめて難しいことが実感できました。Fujitsu
posted by: 高橋潔 | 2007.10.02 Tuesday | 22:02 |
イギリス・レポート(その3)
BA
 BATに続いて、われわれは、ヒースロー空港近くの、ブリティシュ・エアウェイズ管制センターを訪れました。集中危機管理室の内部を見学し、万一、事故が発生した場合に、各部署の担当責任者が一同に介し、情報の収集を行い、対応を即座に決定する仕方について説明を受けました。緊急時には6万件もの電話問合せが発生するために、事故被害者の親族への連絡と、一般の顧客からの問合せを識別し、緊急性・重要度の高い相手に適切に対応するための電話センターも、見学させてもらいしました。この集中危機管理室を見る限りでは、ブリティシュ・エアウェイズの危機対応は、きわめて高い水準にあることが実感できます。
 2012年のロンドン・オリンピックを控え、そのオフィシャル・エアラインとして、今から十分な危機管理能力を維持していこうとする態度が見えます。ただし、他の多くの航空会社と同じように、ブリティッシュ・エアウェイズの顧客満足度も高いとはいえないようです。フライトの予約、定時運航、機内サービス、荷物管理などの面で、航空会社は一般に、多くの不満をもたれるものですが、ブリティッシュ・エアウェイズについてもコメントをよく耳にします。非常時の危機管理に関する十全な対応措置と比べて、日常のオペレーション上の顧客対応との間に、いささか乖離があることが気になるところです。
posted by: 高橋潔 | 2007.10.02 Tuesday | 22:00 |