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posted by: - | 2009.08.06 Thursday | |
安藤先生の書籍の書評
JUGEMテーマ:ビジネス
 

『エコノミスト』誌 書評記事より 安藤忠雄著『建築家 安藤忠雄』新潮社。(評者 金井壽宏)

 

 世界を旅した後、独学で建築を学び、人生やキャリアそのものが旅だとも述べてきた建築家、安藤忠雄の自伝である。これまでの著作でも、建物の背後にある想いを語るときには、自伝的語りを伴っていたが、本書も世に生み出してきた作品との関連で自分を語り、そのときどきの感情、思考などを吐露。読む人に鮮烈な生命力と熱い闘争心、そして人と人とのつながりや共同体の大切さを教えてくれる。

 安藤は建物に住む人がいて、住む人は共同体のなかに生きていて、それゆえ建築とは社会的な生産行為だと看破。形だけの引用、模倣を排し、伝統とは形そのものではなく形を担う精神であると言う。安藤は建築を成り立たせる社会の仕組みまで踏まえつつ、創造性を磨いてきたのである。

 初期の「住吉の長屋」から、最近の東京での「海の森」まで、全作品が闘いであり、運動の結果であった。社会のなかの運動なので、新規のアイデアは衝突を起こす。それだけに、実際には「建たなかった」プロジェクトがとても大切にされる。

 かつて、創造の原動力についてお伺いしたときに「怒り」だと言われたので、「怒りを原動力にしていい仕事をされる人はまれだとも思うのですが?」と恐る恐るお聞きしたところ、「怒りは怒りでも、こんな空間の使われ方は承知しないぞという社会性を帯びた怒りなんだ」と言われたのを、この本を読みながら思い出した。建たなかったプロジェクトが続いても、その連戦連敗そのものが闘いであり、運動であることが、本書から伝わってくる。

 評者の勤務する神戸大学で昨年講演をお願いしたときには、本書の第1章で披露される組織づくりについて語ってくださったが、「リーダーシップは暴力です」と吐露された。ジョークではなく、この表現で闘うことを忘れた日本のリーダーに警鐘を鳴らされたのだと思う。

 また、創造的行為は孤独であると勘違いし、人とつながる力を活用しないで創造性を発揮できない人がいる。ぜひ、本書を通じて、創造性がいかに、共同体、子供、クライアント、行政などとの関係性のなかで発揮されるかを感知したいものだ。

 闘わないことから生まれる脆弱な関係性より、賛否両論があっても闘い続け、建物が実際に建っても企画だけに終わっても、前進し続ける。良質な怒りや闘争心があるべきなのに、それを忘れがちな評者には、本書は劇薬のように効く。座右の書にすべき、破格の自伝だ。

posted by: 金井壽宏 | 2009.07.03 Friday | 18:30 |
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posted by: - | 2009.08.06 Thursday | 18:30 |