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posted by: - | 2009.08.06 Thursday | |
美徳の経営
評価:
野中 郁次郎,紺野 登
エヌティティ出版
¥ 1,995
(2007-05)
 わが敬愛の野中郁次郎先生が、デザイン・マネジメントではわたしの師匠でもある紺野 登さんと新著を上梓されました。フロネシス(賢慮)ということが、ここ数年、研究会でも講演でも、先生の中心トピックとなりつつあるのにふれてきました。こうやって、書籍になって、だれも手にとれるようになったことを喜んでいます。『週刊エコノミスト』(07/17号)にも書評を書かせてもらいましたが、字数の関係で、短いバージョンが掲載されています。ここに、元のちょっと長いバージョン(といっても、短い書評ですが)を掲載させてもらいました。わたし自身としては、野中先生が監訳された『出現する未来』(P.センゲ他著、講談社)にも著者として名前を連ねる、ジョセフ・ジャウォースキーの著書『シンクロニシティ』が今年中に、英治出版から出ることになったことをとても喜んでいます。どこかで通じるところがあろうかと思っています。

 以下が、書評のちょっと長いバージョンです。


野中郁次郎・紺野 登著『美徳の経営』NTT出版、2007年6月。

 日本企業が苦労を重ねて時代を経て日本的経営の無批判な礼賛論は、さすがに姿を消したが、アングロサクソン型の企業統治と経営システムを一方的に称える論調もおだやかにはなってきた。もっとバランスよい見方が必要かと思われるときに、今後の経営のあり方を考える好著が出た。
 この本の第一著者は、世界に対して日本を代表する学者で、わが国の企業組織には、精緻に体系化(あるいは、形式知識化)されていなくても、現場に豊かな暗黙知があり、革新指向のミドル・マネジャーによってトップと現場が結ばれていたことを明らかにしてきた。第二著者は、デザイン・マネジメントの研究と実践に詳しく、評者自身が、デザインやアートを競争の鍵とする企業群を英国に訪ねたときに、その慧眼と人脈に驚かされた。ふたりの著者は、これまでも、知識創造の経営とデザイン・マネジメントを融合するような分野で、折りにふれ、共著の書籍や論文を世に問うてきたが、その最新成果が、本書『美徳の経営』だ。美徳とは、「「共通善(common good)」を志向する卓越性(excellence)の追求」(p.iii)とも、「社会倫理的な徳に加え、審美性への理解、そして知的力量が融合したもの」(26頁)とも、定義される。タイトルそのもの、ずばり「美徳の経営」は、簡潔に「共通善を念頭に社会共同体の知を生かす経営」(35頁)と特徴づけられている。このテーマは難しいトピックであり、著者たちの主張は、やや理想論的でもあるので、実例に困るのではないかと思われるかもしれない。ところが、実際には、公共性、社会性を帯びた企業や、芸術や美的なデザインにこだわる経営者が、内外から例示として豊富に登場する。海外では英国のコオペラティブ・バンク、バングラデシュのグラミン銀行、わが国伝統企業では、クラレや資生堂、財閥では三井、チャーチルや緒方貞子氏のリーダーシップが取り上げられるかと思えば、世阿弥の古典や西田幾多郎の哲学への言及があったりする。美徳を実現できなかった不祥事で悪名高い会社もところどころで顔を出す。美徳は共通善と関わるで、美徳の経営は、美(やデザイン)への関心と知の復権だけでなく、企業倫理、CSRにかかわる。そんな例示を探すことも容易だ、
全編を通じて、評者自身も注目する(政治)哲学者A.マッキンタイアの『美徳なき時代』からの影響もあり、実践、物語、伝統からの学習が強調される。同時に、書物全体を彩るのは、著者たちの職人の世界や工芸への憧憬だ。しかし、意識的に理想主義的に書かれていると思われるが、その論調はけっして回顧的なものではない。将来の指針に満ちている。著者たちは、豊かな暗黙知が支えの現場の底力、モノづくりの組織能力だけでは、グローバル競争には対応できないことをはっきりと認める。そのうえで、日本企業とは、暗黙知だけにべったりと依存しているという見方を排し、暗黙知と形式知の境界線(両者の相互作用、相互変換)を強調する。
 中年以上の読者なら、美徳の実践知(practical wisdom)の追求がどこかで「よい年のとり方(サクセスフル・エイジング)」にもかかわることに気づかれることだろう。アリストテレスに遡るフロネシス(賢慮)の概念こそが、今後の美徳の経営におけるリーダーシップを支えるキーワードとなっている。それは若くしてできることではない。美徳あるリーダーになりたいのなら、齢を重ねた分経験蓄積が豊かになるだけでなく、その経験からの教訓を語り、それを自分なりの考え(持論)を明示的にもつことが望まれる。リーダーシップ育成と前向きの中年論に興味をもつ評者にはそう思われた。
 

posted by: 金井壽宏 | 2007.07.09 Monday | 23:43 |
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posted by: - | 2009.08.06 Thursday | 23:43 |